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紙飛行機クラブにいた僕を、今になって迎えに行きたい

こんにちは、静観です。

子どもの頃に好きだったものを、
今もちゃんと覚えている人は、どれくらいいるんだろう。

大人になると、昔好きだったものは、
いつの間にか置いていかれる。

仕事にならないから。
役に立たないから。
もう大人だから。
今さらやっても仕方ないから。

そんなふうに、自分で理由をつけて。

子どもの頃はあれだけ夢中だったのに、
気づけば、その名前すら思い出せなくなっていたりする。

でも最近、僕はひとつだけ、
昔の自分を迎えに行きたくなった。

紙飛行機だ。

過去に戻りたいわけではない

最初に言っておくと、
僕は過去にあまり戻りたくない。

小学校も中学校も、
「もう一度やりたい」と思えるような時間ではなかった。

友達がまったくいなかったわけではない。
楽しい瞬間がなかったわけでもない。

でも、全体として思い出すと、
あまり自由ではなかった。

こうしなさいと言われる。
普通はこっちだと言われる。
勉強するか、運動部に入るか。

自分が何を好きかよりも、
周りから見てちゃんとしているかの方が大事だった気がする。

大人になってからも、
雇われて働いていた頃は、似たような空気があった。

料理人時代には、
自分の車に弁当を積んで運ばなければいけない流れになったことがある。

雇われているのに、
自分の車も、時間も、ガソリン代も、当たり前みたいに使われる。

断りにくい空気の中で、
「これくらいやるのが普通だろう」と言われているような感じがした。

ああいう場所には、もう戻りたくない。

結婚生活の中でも、
自分を後回しにしていい人間みたいに扱われていると感じる時期があった。

今思えば、僕はずっと、
自分が雑に扱われる場所から離れたかったんだと思う。

そして気づけば今は、
午前中に仕事をして、午後は自由に過ごす日もある。

家で仕事ができる。
やりたければ午後も働ける。
休みたければ、コーヒーを淹れて、ゲームをして、猫と過ごせる。

昔の僕から見たら、
たぶん信じられない暮らしだと思う。

だから、過去を美化したいわけじゃない。

小学校にも中学校にも、
料理人時代にも、戻りたくない。

でも、戻りたくない時間の中にも、
ひとつだけ天国みたいな場所があった。

紙飛行機クラブだった。

分厚い紙飛行機の本があった

僕が小学生の頃、学校に紙飛行機クラブがあった。

人数は、10人いたかいないかくらいだったと思う。

そのクラブでは、
分厚くて大きな本が渡された。

本の中には、いろんな紙飛行機の作り方が載っている。

翼が大きいもの。
細くて速そうなもの。
遠くまで飛びそうなもの。
形だけでもう、どこかへ飛んでいきそうなもの。

しかも、その本は直接切ってよかった。

本に印刷された型紙を切って、
紙を折って、糊で貼って、形にしていく。

今思うと、少し贅沢な本だった気がする。

本は読むもの、汚しちゃいけないもの、
という感覚があるじゃないですか。

でも、あの本は切っていい。

自分が作りたい飛行機のページを選んで、
そこから切り取って、実際に作っていい。

それがもう、本当に楽しかった。

作る時間も好きだった。

ハサミで切る。
糊で貼る。
翼が少し曲がっていないか見る。
バランスを整える。

そして、できあがったものが、
最後には本当に飛ぶ。

ただの紙だったものが、
形を変えて、空気に乗って、少し先まで飛んでいく。

なんでこんな一枚の紙が飛ぶんだろう。

どうしてこの角度だと飛ばなくなるんだろう。

少し重いだけで、飛び方が変わる。

そんなことを考えながら、
紙飛行機を作っていた。

作る前から、もう楽しかった

紙飛行機クラブで何が一番好きだったか。

たぶん、作る前の時間もかなり好きだった。

本を最初のページから最後まで眺める。

次はこれを作るのかな。
この飛行機は、どんなふうに飛ぶんだろう。
次回は、もっと大きいやつを作れるかな。

まだ何も始まっていないのに、
その本を見ているだけで楽しかった。

今から、どんなものができあがるんだろう。

僕はたぶん、あの「これから形になるものを見る時間」が好きだった。

完成したものを眺めるだけじゃない。

何もない紙があって、
そこから少しずつ形ができて、
最後には飛ぶものになる。

その工程全部が好きだった。

今思うと、
僕が今も何かを作るのが好きなのは、あの頃から変わっていないのかもしれない。

記事を書く。
商品を作る。
会員制の仕組みを考える。
思いついたものを、少しずつ形にする。

出してみて、反応を見て、少し直す。

紙飛行機もそうだった。

作ってみる。
飛ばしてみる。
うまく飛ばなかったら、少し調整する。

もう一度、飛ばしてみる。

ただの紙だったものが、
少しずつ「飛ぶ形」になっていく。

あの感覚は、今の仕事にもどこか残っている気がする。

好きなものが同じ人だけが集まる場所

紙飛行機クラブには、
同じクラスの子もいたし、普段は話さない子もいた。

でも、紙飛行機が好きというだけで、
すぐに話せた。

どの形が一番遠くまで飛びそうか。

熊本空港に飛行機を見に行ったことがあるとか。

滑走路の外から、飛行機を眺めた話とか。

誰が一番遠くまで飛ばせるか。
誰の飛行機が長く飛ぶか。

そんな競争もあった。

でも、不思議と嫌な感じはなかった。

好きなこと同士で競うと、
勝ち負けだけにならない。

誰かが遠くまで飛ばせば、
悔しいより先に「どうやったんだろう」と思う。

自分の飛行機がうまく飛ばなければ、
次は少し変えてみようと思える。

そこには、
学校で感じるような息苦しさがなかった。

誰かに合わせなくてもいい。

運動が得意じゃなくてもいい。
勉強が一番じゃなくてもいい。
目立たなくてもいい。

紙飛行機が好き。

その一つだけで、
ちゃんとそこにいてよかった。

今振り返ると、
あの場所はすごく自由だったんだと思う。

中島先生も、紙飛行機の時だけ違う顔をしていた

紙飛行機クラブの担当は、中島先生だった。

普段の中島先生は、
いかにも昭和の学校にいそうな先生だった。

きっちりしていて、
少し怖くて、眼鏡をかけていて、
先生としてちゃんとしなきゃいけない空気をまとっていた。

正直、普段はあまり楽しそうには見えなかった。

でも、紙飛行機クラブの時だけ、
先生の顔が少し違った。

紙飛行機が、本当に好きだったんだと思う。

子どもたちと一緒に作っている時は、
普段よりやさしい顔をしていた。

飛んだ時には、
先生も少し嬉しそうだった。

あの頃の僕は、言葉にはできなかった。

でも今なら分かる。

人は、好きなものに触れている時だけ、本来の顔に戻ることがある。

子どもだけじゃない。

大人も同じなんだと思う。

普段は、仕事の顔をしている。

責任を背負って、
ちゃんとしなきゃいけなくて、
誰かに合わせて、
怒られないようにしている。

でも、好きなことの前では、
少しだけその鎧が外れる。

紙飛行機が好きな中島先生は、
先生という役割より前に、
ただ紙飛行機が好きな大人に戻っていた。

僕はあの時、
その顔をちゃんと見ていたんだと思う。

昔好きだったものは、仕事にしなくていい

最近、あの紙飛行機の本を探してみようかなと思った。

今でも同じ本があるのかは分からない。

もしかしたら、まったく違う本かもしれない。

でも、また紙飛行機を作ってみたい。

紙を切って、
貼って、
少しバランスを調整して、
飛ばしてみたい。

紙飛行機を仕事にしたいわけじゃない。

プロになりたいわけでもない。

誰かに見せたいわけでもない。

ただ、昔の自分が好きだったものを、
今の暮らしの中に少し戻してみたい。

それだけでいい気がする。

大人になると、
好きなことは仕事につなげなきゃいけないと思いがちだ。

趣味を始めても、
「これで何かできるかな」
「収入につながるかな」
「上手くなれるかな」

と、すぐに考えてしまう。

でも、昔好きだったものは、
何かにしなくてもいい。

役に立たなくてもいい。

ただ、自分が少し嬉しくなるために、
そこに置いておいていい。

あなたにも、置いてきた好きがあるかもしれない

昔好きだったものを、
少しだけ思い出してみてほしい。

仕事にする前のこと。

上手くなる前のこと。

誰かに褒められる前のこと。

ただ、時間を忘れていたもの。

たとえば、

  • プラモデルを作るのが好きだった
  • 絵を描くのが好きだった
  • 虫を捕まえるのが好きだった
  • アニメや漫画の世界に入り込むのが好きだった
  • 音楽を聴きながら、歌詞カードをずっと読んでいた
  • 切手やカードや石を集めていた
  • 本屋で、欲しい本をずっと眺めていた
  • 何かを分解したり、組み立てたりするのが好きだった

それを、今すぐ再開しなくてもいい。

道具を買わなくてもいい。

まずは検索してみるだけでもいい。

昔好きだったものの名前を、
スマホに打ち込んでみる。

「まだあるんだ」と思うだけでも、
少し嬉しくなるかもしれない。

昔の自分を、
無理に取り戻さなくていい。

でも、あの頃好きだった気持ちを、
今の暮らしに少しだけ置いてあげることはできる。

過去には戻らない。でも、好きだった自分は連れて帰れる

僕は過去に戻りたいわけじゃない。

戻りたくない時間もある。

もう一度味わいたくない空気もある。

自分を後回しにして、
我慢ばかりして、
誰かの都合に合わせ続ける人生には戻りたくない。

でも、過去から離れることと、
昔の自分を全部捨てることは、同じじゃなかった。

戻りたくない時間の中にも、
好きだったものがある。

自分らしかった瞬間がある。

紙飛行機クラブにいた僕は、
今もどこかに残っている。

分厚い本を開いて、
次は何を作ろうかと考えていた僕。

ハサミで切って、
糊で貼って、
少しでも遠くまで飛ぶ形を探していた僕。

その子を、今になって迎えに行ってもいい。

過去には戻らなくていい。

でも、好きだった自分まで、
置いていかなくていい。

僕はたぶん、
紙飛行機の本を探してみる。

そしてまた一機、
作って飛ばしてみようと思う。